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障害児の親としてどうしたらいいの?との戦いと技術開発 その7

(その6からつづく)

現在は、発達障害という概念がかなり一般化されてきたので、皆さん良いプログラムやサービスを選んで受けることができるようになったと思います。公的機関での相談や公的サービスなども充実しており、約30年前から取り組んできた私には隔世の感があります。発達障害に対する社会保障制度もかなり充実していますし、経済的な自立においても障害者雇用などが制度化されました。これらは多くの方が関わり、様々なニーズや悩みをもとに作られてきた制度であるだけに大切にしたいと思います。

 

しかし、公的サービスが充実すると不正受給などのフリーライド(ただ乗り、公共経済学的な視点です)や制度の悪用などがどうしても起こります。公平・公正に運用しないと制度疲労などにより質の低下が起こることもあるので親として余計な心配をしてしまいます。悪気なく少しでも制度を活用しようとして障害の判定を必要以上に重く獲得しようとしたり、薬を過剰なまでに医師に求めたりするなどの自己利益を追求する傾向も出やすくなります。そうすると資源の枯渇などで良い制度も内容が制限されいくことにつながってきます。


昔に比べて公的サービスが充実するにつれて、どうすれば障害認定がとれるか。精神障害者の1級をどうすれば取れるのか?などというお話しが10年ほど前から私の周りに増えてきました。それを専門的にアドバイスする方や業者まで現れて、まるで障害者を増やそうとしているようにも感じました。本当に必要な人にとっては、このような制度があることで社会的な不安から救われますので大切なのですが、このような風潮に疑問も感じていました。


特に、この事業を立ち上げる前に、息子の知り合いで発達に課題(知的、自閉の診断、相貌失認の可能性も)のある若い女性の方が関係者に内緒で相談に来られたことがありました。自分はきちんと物事は考えられるし、身の回りのこともできるので、親や関係者の方は反対するけれど、親から離れて自立したい。自分はホームヘルパー2級の資格も自分でチャレンジして取れたから老人福祉施設で働いて人の役に立ちたいとの相談でした。


具体的にお話をお聞きしていくと、精神障害の1級であることも話してくれました。その時の心理テストの公開されたデータなどを持ってきてくれましたが、知的障害レベルの結果でした。話している印象とデータとが合わない感じがしたので、いろいろ本人に聞いてみました。テストについては、指導をしていただいてる方に出来るだけ時間をかけてゆっくり受けてください。無理しなくていいですよ。良い点を取らないようにとのアドバイスを受けたと話してくれました。私の違和感はここからきていたのかもしれないと思いました。


その後よくわからないけど、精神の1級が取れたとみんなが喜んでくれたと話してくれました。本人は少し罪悪感を感じて混乱しているとのことでした。関係者の方に英検なども1級は難しいので、1級はいいことだと言われたそうです。なぜかわからないが納得できないからこの意味を教えて欲しいと言われるので、障害者年金制度を解説しました。


本人は発達障害と1級の意味が納得できたようですが、「結局年金支給額が高くなるのですね。それで親は安心していたのですか。私は、自分の問題を克服したかったのですが、親からそれは無理だ。お金がたくさんもらえるのだから、それで十分だと言われた意味がわかりました。私は、重い障害者で治らないのですよね。働くのは難しいと言われた意味がわかりました。残念だけど諦めて障害者として生きていくしかないですね。」と少し悲しそうに話してくれました。


私からみたら、きちんとトレーニングをしたら、もっと伸びるし、ヘルパーの資格を生かして経済的に様々な方法で自立していけると思いました。しかし、ご家族の方針なので、それ以上のことは何も言えませんでした。発達障害は良くならないとの言説が社会で定着してきていることを実感した瞬間でした。その背景として発達障害も2011年から精神障害者の認定基準として認められたので、そのような流れが出てきたことは理解できました。


しかし、発達障害を克服して自立したいと言われた彼女の気持ちやその時の表情が頭から離れませんでした。私はそのような希望のある方のためにも、発達の課題という視点から、福祉コースだけでなく経済的自立へも方向転換できるライフコースとセーフティネットの必要性を親としても考え始めていました。少年院の子ども達から学ばせていただいた、適切なプログラムでよくなる。ことを大切にしたいと思いました。


現在の認知リフレーミング®︎技術は、マッチングさえすれば、発達の課題を克服できるように設計したものですし、ライフコースケア®︎というサービスもより自分らしい自立を望む方々のために開発しています。公的サービスを使わないことも併用することも自分の意思で選べるように、まず能力開発を行い、福祉系のライフコースだけでない人生を選べる自由を楽しんで欲しいと願っています。


現在では、ニーズに対応できるようなシステムも出来上がってきました。今後も技術開発とさまざまな団体や組織と提携して、本人にとって最善のライフコースケアをご提供できるように頑張っていきたいと思っています。親としてできることは、現在サービスは沢山ありますので、子どもさんのライフコースという視点から可能性と可塑性を中心に発達の課題の克服にもチャレンジされることをおすすめしたいと思います。



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