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障害児の親としてどうしたらいいの?との戦いと技術開発 その6

(その5からつづく)

発達に課題のある子供たちが多く認められたので、教育の指導方法や内容を工夫していくことから始めました。最終的な目的は、犯罪者的思考という認知バイアスを修正することですが、まずは言語や数概念、生活ルールなどの基本的なレベルから学んでもらわなければなりませんでした。


加えて、学習能力だけでなく運動も苦手だったり、好き嫌いが顕著で栄養不足になるほどの偏食の問題も認められました。これらの領域も発達に大きな影響を及ぼしますので、従来の運動指導や食事指導なども発達の視点から工夫していきました。このように運動や食事の視点も含めて、それまでのだらしない生活を真面目に行うように指導を重ねて行きました。一見荒々しく強く見える彼らもよく見ると最低限の生きる力が獲得されていませんでした。基本的生活習慣レベルからもできないことが多く、生活自立も難しい状態でしたので、生活指導の領域も発達の視点から見直していきました。


例えば生活面でも、掃除や整理整頓が苦手です。箒や塵取りの使い方、机の整理の方法も手取り足取り教えてパターン化したり、衣服のたたみ方や衣装ボックスの整理の仕方を先生がモデルを示して何回も教えていきました。彼らは、空間認識や視覚的注意、視覚的記憶の力が弱いため、生活力が低下して逸脱などへ繋がりやすくなっているので、これらの力を生活を通して育くむことによって発達の課題を克服させていこうとしました。


また、生活指導領域の集団指導も重要な指導のひとつとして計画されていました。集団指導は、対話などの集団の力を借りて人格形成をはかることも目的のひとつでした。しかし、話し合いをして問題解決へと持って行こうとしても、語彙力の乏しい彼らには他人を批判するだけになりやすく、対話レベルからうまくいかないことも多くありました。ですので、まず語彙力や言葉遣いなどを育てるために、国語の指導を言語指導的な内容に変えて力をつけていきました。そして基本的なコミュニケーション力が育てば、レベルの高いワークショップ形式の対人関係プログラムなども導入して、暴力ではなく対話による問題解決の方法を発達の課題を超えて学んでいけるようにしました。


加えて、生活の基本である整理整頓が苦手ですが、これはセルフコントロール力や管理能力だけでなく運動の力も重要なのです。腕力や脚力、背筋力などの力も必要ですが、バランス感覚や柔軟性も大切です。物を運んだり、高いところの物を整理したりする時には特に重要です。しかし、体幹が発達していないので、姿勢の維持ができずに朝の朝礼でもフラフラしたり、若いのに肩が凝ったりと問題が出るだけでなく、基礎代謝も低いことが多かったですね。このように整理整頓も発達課題の克服のための指導法として活用しました。なかなか効果は高かったですね。皆さんできるようになりますからね。


次は体の姿勢に対する指導を強化しました。姿勢が悪いために、胸郭が狭くなり呼吸が浅くなるだけでなく、結果的に肺活量が低下して空気を十分に吸えなくなり酸素吸収も悪くなります。当然、酸素を使っている脳機能などにも影響が出て、発達障害のような問題がでることもあります。実際、いつも不満や文句ばかり言っていた子供が、姿勢を正すだけで、言葉遣いまで変わることがありました。食事の姿勢も同じですね。姿勢ひとつで発達上の問題も軽くなるのです。


とにかく、教育的に発達課題を細かく見直して、できる限り丁寧な指導を組織的に展開して行きました。そうすると、だんだん学習能力も上がりますし、体力やバランス感覚などもついてきます。学習障害やADHDの可能性が高い子どもたちでしたが、徐々に普通の健康的な姿に戻っていきました。


このような活動を通した子どもたちに教えてもらったのは、発達障害ではなく発達に課題のあるだけかもしれないということでした。学力も入院時の全院生の偏差値平均は43程度でしたが、出院時には平均60以上まで伸びました。彼らの成長を見ていると発達障害とはなんぞやと考えさせられることも多かったですね。私が発達障害という言葉をあまり使わず発達の課題という言葉を使うのは、そういう経験からきています。


ただ、このようなプログラムを行なっても、あまり効果が出にくかった方々もおられました。やはり発達障害としか見れないなと思いつつも、できるところも多いので、本当に中枢神経系の大脳皮質に問題が障害なのか?という疑問が拭えませんでした。私の息子のようなてんかんなどの問題から派生するパターンと異なりますし、彼らは確かに社会性などに問題はあります。しかし論理パターンをよく観察して見ると、整合性や彼らなりの社会性もあるので、何とかなるのではと思っていました。(つづく)