何度も非行を繰り返してきた子どもたちも初めての万引きや窃盗を行った時の罪悪感などをよく話してくれました。初めてものを盗んだときは、近くの人が私服刑事に見えたり、パトカーが走っていると、自分を捕まえにきたのではないかとビクビクしてとても恐ろしかったという子どもたちも多かったです。
ところが、捕まらず慣れてくると、罪悪感や警察などに対する怖さが薄れてきて、成功体験と自信に変わってきます。だんだん窃盗する金額目標を高めていくようになると、犯罪に対する感覚が麻痺して、達成感を楽しむようになる子どもも多かったです。少年院に送致されても、罪悪感もなく、俺ってすごい!と再犯リスクが高いまま生活するようになります。
今は違うと思いますが、当時は窃盗の子どもは再犯しやすいという感覚が教官たちの見方でもありました。学校などで落ちこぼれて、非行で成功体験を積み重ね自信を付けて自尊心を高めていくから改善しにくいのです。努力せずに成功しやすい構造があるといえますね。
ですので、彼らの学力不足などの要因として学習障害などの問題にターゲットを当てて、学力や思考の問題を少しでも改善させようと、その視点からさまざまなプログラムを開発していきました。もう25年も前になってしまいましたが、発達の視点を入れた認知行動療法を検討したのもこのような非行の実態があったからなのです。
また、約120人くらいの子どもたちを一同に集めて指導することがありました。当時は、約半数以上が窃盗などの非行名がついていました。非行を抑える要因は何かを確かめるために、次のような極端な質問を全員にしてみました。
もし、現在君たちが医師であったとしたら、窃盗(万引き)などの非行をしますか?という質問をしました。その時に、1人を除いて、全員しないと答えました。その1人は医師の社会的な意味が理解できていなかったので、説明をすると、窃盗するわけないです!との答えに変わりました。
なぜ、君が医師なら非行をしないのですか?と聞くと、お医者さんになるには、いっぱい勉強して、お金も使わないとなれないから、非行などしませんよ。とか、人の役に立てるので、非行していたら信用されなくなるのでやりません。などという回答が返ってきました。
このような子どもたちの様子を書いてみましたが、どのようなことを感じられたでしょうか?万引きで悩まれている方は、子どもたちの視点も参考に考えていただければ嬉しいです。
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